父の仕事を手伝い始めて1ヶ月が過ぎた頃、憧れの【かざま鋭二】師から
待ちこがれていた返事が届いたのです。
採用か、不採用か・・・この手紙で俺の人生が決まる ! !
《 お願いです、かざま先生! アシスタントにして下さいっ ! ! 》
手を合わせドキドキしながら震える手で開封・・・
焦りながら『採用』の文字を探す・・。
1枚目は同封した絵のことを褒めてくれている・・2枚目・・は・・ない・・
『採用』の文字が見つからない・・・! と、・・目に飛び込んだ最後の行に
【16歳の君をアシスタントとして受け入れるには、
御両親の承諾書を希望します。
それを条件として『採用します』。】
「やったあ〜〜〜っっ ! ! ! ! アシスタントになれるっ ! !
これで俺も漫画家の仲間入りだぁっ ! ! 」
大はしゃぎで飯場の回りを走り回り、晩飯を食べるのも忘れていました。
実はそこからが大変だったのです。
父に手紙を見せてすぐにでも東京に行けるものと思っていました。
ところが・・・
「許さん! お前は儂の跡を継げ! !」と、ひと言。
手紙を見ようともしてくれません。
「儂の作った物を全部お前にやるから跡を継げっ! !」と、言ったきり口をきいて
くれません。
それからは起きてから寝るまで、父の顔を見るたびに
「漫画家になりたい! ! お願いです東京に行かせて下さい! !」と、
1日何十回言ったか分かりません。
若い衆とは酒を飲んで笑って・・いつもの親方ですが、
私が何を言っても聞こえないふり、知らんぷりの父でした。
2日・・3日・・・このままでは俺の漫画家の姿は見えない!
何か作戦を考えなきゃ・・・! !
数日後、昼飯が終わったあと午後の仕事入りまで時間があったので、
若い衆が相撲を取っていました。
力自慢の若い衆が自慢げに父に言いました、
「親方、どうよっ!」その誘いに父は・・・
「儂に勝ったら今夜のみんなの請求書(飲み代の)を 持ってこい!」と。
それを聞いて力自慢の若い衆は鼻息が荒くなり“ただ飲み”を期待し興奮している
若い衆達の盛り上がりは最高潮に達しました。
当時、大卒サラリーマンの初任給を若い衆は数日間で酒と女に使い果たして
いましたから、その盛り上がりは当然です!
『若さと力を持て余している若い衆』対『160センチ・40歳の親方』の勝負。
土俵上の見合った二人・・・。
『八卦よ〜い・・・のこったぁ!! 』
がっしりと右四つに組んだ瞬間、私にはこの勝負の結果は見えていました!
どうやら冷静に判断しているのは私だけのようでした・・・。
第6話「採用通知、そして・・・」 第7話につづく。