第5話「父との約束」

父の言い分はこうでした。
「お前が勝手にしたことは、食らわしたビンタの分で許してやる。・・・が、しかし
 落書きで生活するっちゅう訳の解らん事は認めんっ! !」と、 さらに父は・・・
「学校を辞めた以上は地に足着けて働けっ! ! 
儂の後を継いで、働くことの辛さ、ありがたさを思い知れ、解ったなっ! !」

有無を言わさず強制連行でした。
父の仕事は鳶職で、たえず20人〜30人の若い衆を抱え日本中を飛び回っていました。
その当時は ”香川県坂出” に現場が出ていて、強制連行の行き先でした。

学校を辞めた三日後、父に連れられ ”坂出” の現場へ。
プレハブ造りの飯場が目に入った時に覚悟はしました・・・。
「三ヶ月間だけここで我慢すればいいんだ、たった三ヶ月間だけ・・そのあとは
 夢の東京だっ! 漫画家の都・とうきょうだぁ〜〜〜〜〜っ! !」 
「三ヶ月なんてあっと言う間さっ! !」

翌朝から過酷な肉体労働が始まったのです。
朝7時には起きて朝飯を食べ、8時には現場に入る。

昼までの4時間をみっちり働き、
クタクタ状態で昼飯にありつく、1時には現場に入り再びガッチリ肉体労働を。
5時に終わり疲れ切った体を引きずる様に飯場に帰り、晩飯を食べ、
眠いのを我慢しながら鉛の様な体を風呂につからせ、布団に潜り込む・・。

親方である父から「息子を甘やかすな」と、言われていたため若い衆達も一切の
手加減はなく一人前の人足として対するので、そのキツさは生半可ではなかったです。
経験して初めて父の仕事の大変さを味わいました。

しかし不思議なもので一週間もすると体の方は慣れてくるのです・・。
体は引き締まり筋肉質になっている様に感じます。 
このままでは指先の繊細な動きが出来なくなり、
細かい線が引けなくなって行く気が・・・。

焦った私は【かざま鋭二】師に弟子入り志願の手紙を送ることに決め、
漫画に対する自分の熱い想いを必死で綴りました。 
自分の作品を同封し郵便局へ・・・
局員に手渡したとき思わず手を合わせたことを今でも思い出します。

憧れの【かざま鋭二】師から、待ちこがれた返信が届いたのは
父の仕事を手伝い始めて1ヶ月が経った頃でした。

アシスタントに採用してもらえるのか・・不採用なのか・・
ワクワクドキドキ・・・震えながら手紙を開封・・・
焦りながら『採用』の文字を探す・・。

さあっ、どうなる16歳の俺 ! !
        
    第5話「父との約束」 第6話につづく。


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