第7話「相撲」

我が家には土佐犬が3頭〜4頭いました。 犬好きの父の趣味です。
父は現場が終わり、家にいる時は朝に夕に犬の運動をするのが日課でした。

世間の家では『犬の散歩』といいますが、我が家では『犬の運動』と言っていました。
犬と言っても土佐犬ですから、父と犬の力比べのような格闘に近いものでした。
それを3頭も4頭も毎日の日課ですから、父の体力は私の知る限りどこのお父さんよりも
はるかに強いお父さんでした。

私は物心がついた頃から父や若い衆が腕相撲をする姿を見てきましたが、
父が負ける姿は一度として見たことがありません。

幼かった私にとって父はスーパーマンのような存在でした。
自慢したことはありませんでしたが、誰よりも強い父は密かに自慢でした!

犬の運動コースの途中に神社があります。 境内に入り犬を木につなぎ休憩をします。
父にとっては毎日楽しみの場所だったようです。

境内に入るとすぐ左に土俵があります。
近くの “工業高校相撲部” の練習場になっていました。
父はそこで学生達の練習を眺めているのが好きだったようです。
“工業高校相撲部”は県内「NO 1」の実力で、毎年「全国大会」に出場していました。

夕飯の時に父は相撲部の連中の話をよく聞かせてくれました。
一度も会ったことが無いのに、私には父よりふた回りも3回りも大きい高校生1人1人の
風貌が目に浮かび、父の話に聞き入っていた記憶があります。

そんなある日、練習を眺めていた父に大柄な部員が近寄ってきて、
「おっさん、毎日来よるけど相撲好きなんかね?」
「ああ、おっさんは飯より相撲が好きなんよ! 毎日見よるけどお前等強いのぉ!」
「おっさんこそ大きな犬連れて凄い筋肉しちょるやん、俺と一番とって見らんね?」
「いやいや練習の邪魔しちゃ悪いけんのぉ・・・」と言いながら
父は立ち上がって土俵に上がったそうです。

キャプテンと言うその大柄な部員は、小柄なおっさん相手に油断したのか
あっけなく土をなめたそうです。 部員達は驚いたでしょうね。

その後2番とって『2勝1敗』で父に軍配が上がったそうです。

自慢げに帰ってきた父の顔を今でも思い出します。
その後も毎日犬を連れて行っては学生達と相撲を取っていたようです。

そんな頃に息子が漫画家になりたいと言い出したのです。

「馬鹿なことを言わず儂の跡を継げ!」と、聞く耳を持たない父に
若い衆が今夜の飲み代を掛けての相撲勝負です。
力自慢の若い衆が勝てば全員の一晩の飲み代は親方持ち、と、盛り上がった一番。
がっぷり右四つの五分の体勢。
若い衆が腰を振って親方の手を切ろうとした瞬間に引き付けられ、腰が浮いた若い衆は
足を払われあっと言う間に倒れていました。

「ああ〜〜〜・・・」と、一同の大きなため息が・・・。
その時でした、若頭が
「ふみきよ、漫画家になりたいんやったら親父を倒してみぃ!」と。
「えっ!? そんな無茶な・・・いま目の前で見たじゃない・・・」
焦る私は背中を押され父の前に・・・。
父は知らん顔で笑っているだけ。 その顔を見た私は思わずムカッと・・!
《 ええい くそぉ! 
  俺だってケンカは誰にも負けたこと無いし、
  腕相撲だって親父以外は負けたことないんじゃけぇ! ! 》

父の前で両コブシをつき、仕切りました!!
無表情の父は中腰で受ける構えでいる。

「クッソ〜〜! !  やってやる〜〜っ! ! 」

      第7話「相撲」 第8話につづく。

 


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